大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和40年(タ)57号 判決 1965年10月21日

原告 X

右訴訟代理人弁護士 堀部進

右同 伊藤宏行

被告 Y

主文

一、昭和四〇年八月三〇日名古屋市緑区長に対する届出によってなされた原告と被告との離婚は無効であることを確認する。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、原告と被告とは昭和四〇年三月八日、名古屋市緑区長宛婚姻届出をした夫婦である。

二、原告は、同年四月頃姙娠したが、その頃被告の母Y1から来年はヒノエウマで年廻りが悪いから姙娠中絶手術を受けるよう、強く言われたため、やむなく同月二日同区○○町A病院に入院して姙娠中絶手術を受けた。しかし手術後身体の具合が悪いため豊田市のB病院へ同年八月三〇日まで入院加療し、その後は原告の肩書住居地である○○○郡○○町の実家から右病院へ通院して治療を受けていた。

三、然る処同年九月一三日○○町役場からの通知で被告が原告に無断で名古屋市緑区長宛に同年八月三〇日、協議離婚届を出したことを知るに立った。

四、しかし乍ら、原告はこのような協議離婚届に署名押印したことは勿論のこと、当事者間で離婚について話合ったこともなく、右姙娠中絶とて婚家の意思に従い、被告の同意を得てなしたもので何ら離婚の理由となりうべきことではない。

五、よって原告は、被告のなした右の協議離婚届は原告の離婚意思を欠く無効のものであることの確認を求める。

被告は答弁として次のとおり述べた。

一、被告と原告とが昭和四〇年三月八日、婚姻したこと、原告が姙娠中絶手術を受け同年四月以来、実家に帰っていたことは認めるが、右手術は原告自身の意思によるものである。

二、被告が原告主張の協議離婚届をしたことは認めるが右届出は当事者間の離婚の合意に基づいた有効のものである。即ち原告は昭和四〇年四月二六日、仲人であるZ方別室において、被告が女友達の写真を持っていたことを理由に被告に離婚しようと宣言し、又同年五月姙娠中絶手術以来原告が被告のところに戻らないので被告が原告の実家を訪ねて原告に戻ってくるよう頼んだ際も、原告は「戻る意思はない。写真の女とだけは一緒になってくれるな、他の人となら誰と結婚してもよい」趣旨のことを被告に言い、原告の母も「原告が被告の許に戻ってもうまく行かないだろう」といった趣旨のことをいわれたので被告はやむなく帰ったことがある。又前記仲人夫妻を介しても色々の方法で原告に被告との結婚生活を続けるよう説得してもらったが、原告からは再度に亘り結婚を続ける意思はないとの返答であったのでここに被告も原告の意思に従って離婚に応ずることを決意し、協議離婚の届出手続をしたのである。

当裁判所は職権で被告本人尋問をした。

理由

一、原、被告が昭和四〇年三月八日婚姻したこと、原告が同年四月以来○○○郡○○町の実家へ帰っていること及び被告が主文記載の協議離婚届出をしたことはいずれも当事者間に争いがない。

二、ところで被告本人尋問の結果によれば被告は原告から協議離婚届をするについての何らの依頼も受けていないのに勝手に被告の父Y2の協力を得て協議離婚届書を作成したものであり、これを昭和四〇年八月三〇日、右Y2が戸籍吏に届出たものであることを認めることができ、右認定の事実によれば右協議離婚届出は原告の届出意思を欠く被告の一方的な届出であって無効な届出といわなければならない。

三、もっとも、被告は、原告はかねがね被告と別れたいと言っていたのであるから、その意思に副った本件届出は有効であると主張しているけれども、協議離婚が有効に成立するためには協議離婚の届出の当時当事者間に協議離婚の届出をすることについての合意も存在することが必要と解するのが相当であるから、たとえ原告に本件届出当時に離婚の意思があったとしても、本件届出を有効ならしめるわけのものではない。いわんや本件届出のなされた当時、原告に離婚意思があったと認むべき証拠は無く、却って本件届出後、間髪を入れず、本訴が提起されたいきさつから(裁判離婚の意思はともかく)少くとも協議離婚の意思の無かったと推測すべき本件においてはなおさら右届出を有効視する余地は無い。被告の主張は失当である。

四、なお本件協議離婚の無効なることは明白であり、およそ調停という当事者話合いの場をもうけるまでのこともない事案と判断し家事審判法第一八条第二項但書により本訴を調停に付さなかったものである。

五、以上の理由によって原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 井野三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例